私のもっとも好きな映画は、黒澤明監督の『七人の侍』です。世界の名作といわれる映画の全部を見ることがあったとしても、ほぼ最上位に位置しつづける作品です。理由はいろいろと自分なりに「分析」できます。
まず、脚本のすごさです。徹底的に練りこまれているのが、何度かくりかえし見れば、しろうとにもわかります。おもな登場人物それぞれの人間ドラマがしっかりと数人分、同時進行で丹念に描かれています。人間の成長、明るさ、若い情熱、信念、責任感、などの反面、ずるさ、弱さ、卑屈さなどに感情移入させられ、人間というものを深く考えさせられます。
つぎに、野武士との決闘シーンのすさまじさ。本当にそういう戦いの場にタイムスリップして、透明人間のカメラマンが撮影したかと思うような臨場感。作り話の戦闘なのに、役者たちの魂が銀幕をはみだしてほとばしるかのような迫力。
しかし、最大の理由は、なんといっても作品の主題です。本来なら気位の高いはずの侍が、金銭の見返りもないのに、ただ貧しい百姓たちを救うために戦い、無名のまま死んでいく。人間のもっとも崇高な姿のひとつが、ここにあります。その価値は、100年後も変わりません。人間の世界がつづくかぎり不変の、宇宙的な価値です。なぜならそれは、宇宙が人間を生みだした理由の一つーー「利他心」だからだと思います。
逆に、世情の変化につれて変わる価値を描いたものは、「名作」とは考えません。「強いもの」がはびこる時代に、「弱いもの」を殺して開き直る映画。「弱いもの」が声を上げられる時代になれば、価値の見直しがはじまる作品。そこに永遠の人間の価値はありません。宇宙が本当によろこぶ「人間の仕事」とは、考えられません。
神さま、仏さま、今日もよい気づきを、ありがとうございました。
(2020年6月14日記)
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