声がけでいのちを吹きこむーー「おはやし」

 日本人の生活習慣やしきたりには、「場」や「もの」に命をあたえる、活性化するためのものが、たくさんあります。お祭りのときに聴く「おはやし」がその一つだと思います。漢字では「お囃子」と表記しますね。ふだんの生活でも日本では、なにかのお店や会社でお客さまに対して気持ちよくごあいさつするのも、このおはやしとおなじ精神性から生まれた文化だと思います。


 私の働く飲食店では、お客さまが来店すると、「いらっしゃいませー!」と店員たちがご挨拶します。注文したものが席にとどけられると、「お待たせいたしましたー!」、そして、「ごゆっくりどうぞー!」。基本的にはかならず呼びかけます。

急いでいて手元のナベや丼に集中しているときでも、誰かが気づいて声を上げたのを耳で聞いていて、作業しながら山びこのように声を上げます。企業によっては「やまびこ方式」の名で、新人に指導します。

 お帰りの際には、「ありがとうございます!」。これも誰かにつづいて、全員が連呼します。そして、玄関をでていくお客の背中にむかって、「またお越しくださいませー!」と、ごあいさつをしめくくります。お店ごとに言いまわしの違いはあっても、お客とお店全体に大きな声をかけるのは、共通です。

 これが日本独特の文化で、外国にはないらしいと気づいたのは、たぶんテレビ番組がきっかけです。ある日本の飲食店チェーンが台湾だかシンガポールに進出して、現地人の従業員に基本的なことを指導するシーン。ホールで働く青年に日本人社員が、この声かけを教えます。

青年はその場では言われたように一生懸命やりますが、日本人のいないところで聞くと、「なぜ声をださなきゃならないのか、わからない」「何の意味があるの?」と戸惑いの表情をみせます。

 考えてみれば、海外でこうした声かけ場面はほとんどお目にかかりません。しかし、日本ではそういう文化なのです。

 自分の子供時代を振り返っても、大勢でなにかをするとき、みんなで互いになにか大きな声をかけあう、その場全体に声をかけるのが普通でした。小学校の夏、ソフトボール大会の練習のとき、「ファイトー」とか「ナイス」とか、全員で大きな声を出しあうのが当たり前でした。中学高校の運動部でも同じです。

 当たり前と思っていたことを「わざわざ」考えてみて、自分の国の文化に気づきます。

 「おはやし」の語源は、「生やす」だそうです。つまり、ものごとを新たに生まれさせたり、いまあるものの成長をうながす、勢いをつける、という意味です。お祭りの場合には、その「場」に神さまの「霊威」(目に見えない大きな力)を大いに湧きあがらせます。年に何度か、大ぜいで集まって神さまの降臨をあおぎ、「和せよ(ワッショイ)!」と大声でみな叫びながら神威を高揚させてその恩恵にすべてのものがあずかる。共同体の結束と繁栄をはかる日本人の知恵です。

 日本人の文化の原点は神道なので、この「おはやし」文化が飲食店にもスポーツにも現れてくるということなのでしょう。

  神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございます。

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