「口中調味」も「定食」も、「日本のこころ」から 

 日本文化について外国人に感想を聞く番組を、テレビでみました(NHKクールジャパン)。この日のテーマは「定食」。最初は、「わざわざ『定食』で話し合うのか?」くらい意外でしたが、見ていくうちに、前から考えていたことが頭の中で整理されてきて、「定食」はしっかりと「日本の心」が反映された重要な日本文化だと、あらためて認識を深めました。


 日本のような定食は、外国にはほとんどないようです。中国には、料理4品とごはんのセットがあると中国人が説明していましたが、聞いていると、どうも定食と呼べるものではないようです。

 番組側が説明するように、定食はごはんが主役です。絶対に、白いご飯が主役。それに合うおかずを考えてそろえて、「定食」が出来上がります。料理主体ではありません。

 これが外国人には意外というより、驚きのようです。
「ありえない。主役は肉って決まってるの!」(英国、女性)
「一体どういうことなのか、理解しようとしてますがーー。食事のときはいつも、肉のことしか考えてない。ーーご飯なんて、満腹になるために食べるだけさ」(ブラジル、男)
「これは衝撃だね。フランス人が思うパン以上に、日本人はご飯をより大事にしている」

(フランス、男)
「私はご飯に味があると気づくのに、7年かかったわ」(豪州、女性)

 「唐揚げの超有名店でおいしくない白米がでてきたら、もう次はいかない?」と司会者に質問した米国人女性は、司会の2人そろって「行かない」の答えに、体をおどらせて「エー!」と驚愕します。

 それくらい外国人には理解しがたい日本人のおコメ重視。ここで小学校での給食が紹介されるなか、生徒からいわれたとして「三角食べ」にふれます。これが外国人たちには不評で、                                                           「食事のしかたまで指図されたくない」と、少し反感をもった人もいたようです。しかし、私はここに「定食」のキモがあると思います。
 
 「三角食べ」は、ごはん、おかず、みそ汁、を順に口に入れるのをくり返す食べ方です。「イナヅマ食い」といって、ごはんと、主菜、副菜、漬物、みそ汁との間をジグザグに箸をつける食べ方もあります。いずれにしても、白米とそれ以外の食物の味を口の中で混ぜ合わせて、調和させて味わう点に、日本独自の文化が表れているのです。

 私が子供の頃は、どちらも人から習った覚えはありません。ただ、おかずを食べるときは白いご飯といっしょに口の中でかみ混ぜながら食べるのが一番おいしい。それは教わらなくても、子供でも自分の舌で自然と覚えます。

おかずを口に入れて噛みくだしながら、味、香り、食感をみる。「ああ、こういう食べ物ね」と味わいながら、それと噛み合わせて一番おいしくなる分量の白米を、自分の好きなだけ口にいれる。噛みしだいて混ぜ合わせ、もう少しコメが混じった方がおいしければコメを追加すればいい。コメが多すぎたら、次にコメを箸にとるとき、自然と少な目にとる。口の中でコメとおかずを噛み合わせて、味、香り、食感の「調和」を味わう。

こういう食べ方を、「口中調味」といいます。口内調味、口中調理ともいうらしい。こうすると、誰でも口の中で、自分だけの好きな味に調整できます。料理人が「この味だ」と決めて調理してくれるのですが、それをさらに自分の好みに調整して、食すことができるのです。

料理は料理人の「意図」がとどく最後の、皿の上では完成していません。それを受けとって食べる人の口のなかで、本人の好みの味に調整されて、完成します。だから、私にとって、あなたにとって、彼、彼女にとって、一番好ましい味になります。食べる本人が主体となって、最後の味付けを仕上げるのだから、当然なのです。

 つまり口中調味は、押しつけられない食べ方であり、食べる側、つまり「受け取る側が主体」の食べ方です。まさに日本文化ですね。「落語」「レイキ」とおなじエネルギーの流れ方を、ここでも「日本の心」が選んでいるのです。

いわば、「受信者責任型」の精神文化が、口中調味を生み、三角食べを生み、そしてその先に「定食」を生んだのです。日本のコメは世界で一番おいしいと思いますが、だからそれを主役とする「定食」が日本で生まれた、という訳ではないのです。

それは、稲作で日本よりも悠久の歴史をほこる中国でも、ベトナムでも、タイでも、「定食」が誕生しなかったのをみれば明らかでしょう。彼らはコメ作りはしても、「受けとる側」主体の文化をもたないのです。お茶が世界じゅうで愛飲されているのに、それを「茶道」にまで磨きあげたのは日本人だけ、という事実を彷彿とさせますね。

ついでにいえば、日本人が食事を楽しむとき、「ご飯なん杯でもいける」とか「ご飯がすすむね」などと、よく表現します。コメを食べたくなる量の多さを基準にして、料理のおいしさを表現するところに、日本人がどれだけコメを食事の軸にすえているかが、さりげなく表れています。

 ちなみに、酒と肴を口の中であわせるのも「口中調味」の一種だそうです。日本酒がコメを原料とすることから、解釈が広がったのでしょうか。日本人の大人が、食事のとき酒にこだわるのは、このためでしょう。

 そば、すし、てんぷら、鍋物などの専門店は、必ずそれに合うこだわりの酒をそろえています。「居酒屋」では、酒を飲みながら豊富な種類の料理を楽しめます。その底にあるのは、「口中調味」のこころだと思います。

 まえに台湾にいったとき、私の見た限りでは一般的な料理店にも「夜市」にも、酒をおいてある店が少ないように感じました。せっかくの美食大国なのに、「この料理でビールが飲めれば、もっとおいしいのになあ」と、何度も思いながら旅してました。ある夜市で小皿料理を食べながら、買っておいた缶ビールを「飲んでいい?」と店員に聞いたら、となりの地元客が店員にむかって勝手に「解説」してくれました。「日本人は料理を食べるとき、酒を飲むことが多いんだよ。その方が料理がうまくなるって」。その通り!と心のなかでうなづきながら、私は店員さんのお許しをえて、心おきなくビールと台湾料理を楽しんだのです。

日本を旅する外国人は、「日本のこころ」を味わうつもりで「定食」を食べてみればいい。世界にひとつだけの、日本らしい食文化です。

神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました