「日本人になりたい」は、「いのち」の渇望から

 もう何十年も前、外国でマンガが人気になっていると初めて聞いたとき、日本人の私さえ驚きました。私もマンガ好きな平均的な子供でしたが、昔の日本では、「マンガなんて見てると、バカになるぞ」などといわれていました。白人、金髪の外国に対して自分たちの日本を卑下する風潮もまだ残っていたころなので、アメリカ人やフランス人がそれを喜んで読んでいる姿を想像して、エーッ!とびっくりしたのです。

 その後、もう10年くらい前でしょうか。「日本人になりたい」という言葉を欧米人からはじめて聞いたとき、日本人としてうれしくもありましたが、どちらかというと、違和感というか不可解な思いを覚えました。「日本のアニメが好き」「日本マンガのファン」と言うならわかりますが、「日本人になりたい」とは、ただごとではありません。こんな言葉が外国人の子供たちから出てくる底には、なにがあるのでしょう?その後、「オレの宇宙」や「受けとる側主体」をフィルターに日本文化を自分なりに見直すなかで、少しずつ答えらしきものが見えてきました。

 日本は「受けとる」文化(受信者責任型)ですが、ほとんどの外国では自分を主張しないとことが運ばない、「投げる」文化(発信者責任型)です。自己主張しないかぎり、まわりが「察して」動いてくれることはない。「気づかい」の文化ではありません。当然、衝突が起きる。ある日本人の英語教師から、「英語圏の人たちの象徴的な文化の一つは、『conflict”(闘争、矛盾、衝突)』です」と教わったのをよく覚えています。「彼らは互いにぶつからずにいられない。だから討論が好きで、対立しないとイライラするくらい」だと。

 そういう社会では、互いに自分の意図、意見を押しつけ、ときには逆に押しつけられることがふつうに起きます。そうしたなかで、強いものの言い分がまかりとおっていく弱肉強食の社会です。政治制度として民主主義であっても。日本以外では、例外はあっても、ほぼすべての国がこういう社会ではないでしょうか。

 こうした社会では当然、いつも戦っていなければ居場所を確保できない。日本とくらべれば、やすらぎ感はうすいでしょう。ほとんどの国の人たちは、いつも他者からの「押しつけ」や「圧力」を感じながら育ってきたのではないでしょうか。そういう子供たちが、アニメやマンガで日本の「互いに人を気づかう」「思いやる」文化を見つけて、魅了される。

 『トトロ』にしても『どらえもん』にしても、『アンパンマン』や『ちびまるこちゃん』にしても、大人でさえ抱きつきたくなるようなやさしさ、やわらかさ、あたたかみ、親しみに満ちています。家族や友だちへの思いやりや気づかい、自然への愛情など、日本人独特のあたたかさを感じずにいられません。そして友情、勇気、成長、さらには利他心、正直、誠実など、人としての理想像が、ほんのちょっとした暮らしの風景ににじみ出ています。

 そうしたものの価値を、民族をこえて世界中の無垢な子供たち、若年層が敏感に感じとり、日本のアニメ・マンガのそれぞれの作品に熱狂する。やがて、「日本人になりたい」という言葉が口をついて出てくる。そういうことではないでしょうか。

 彼らは、「電車内で居眠りできる」ほどの安らぎの社会を、日本人が実現していることを、心の底でよく見ています。たとえ「人前でよく眠れるね」と口では笑っていても。「日本人にだって、悪いヤツはいるでしょ」と一瞬、ケチをつけてはみても。日本の方が、自分の国より安らげる社会だと、わかっているのだと思います。

 日本人が電車内で居眠りできるのは、外国より治安が良いからですが、その原因も「気づかう」、さらにいえば「人さまを尊重する」心の文化ゆえだと思います。いずれも、外からの信号を自分が受けとって自分が反応するんだ、という「受信者責任型」のこころが底にあります。

 さらにつけ加えれば、日本では「人さまは神さま」だからです。これも「自分の宇宙は自分で創っている」という宇宙観が基本になっていて、やはり「受けとる」文化ゆえです。宇宙に生かされている自分が道に外れたことをすれば、その報いを自分自身が受けとる。自分は自分だけの宇宙の主人で神であり、だから同じように自分の宇宙をもたされている他人さまもみな神だ、ということです。「お天道さま」の自己規律にもつうじる、日本人の基本的な心です。 

 だから、眠っている人をみて、「無警戒だ、よし襲っちゃえ!」という発想自体が、日本人には極端に少ない。いつも自己規律が効いているからです。このこと自体が、外国人には理解を超えているのではないでしょうか。

そういう社会を創りあげられる「人間」に、自分もなりたいと感じるようになる。それが「日本人になりたい」という突飛な言葉になって、口をついて出てくる理由ではないでしょうか。

 眠るという無防備な姿を人前でさらせるほど安らげる国を、日本人は実現しています。外国の子供たちのなかに、トトロのメイのように、トトロのやわらかいお腹のうえで眠りたい子がでてきても、不思議はありません。それができる国で暮らしたい、そういう社会をつくる一員に、自分もなりたい。くち幅ったいですが、それが人間として貴い生き方だと、若い純粋な魂で嗅ぎとっているのではないでしょうか。

 前に見かけたユーチューブで、日本文化を評して「それに、…彼らの文化は、…やさしい」と言葉をつむいだ外国人少女の表情が、印象にのこっています。トトロは、「押しつけ」をしません。メイの心細さ、さみしさを、ただ受けとめてくれます。

 「受けとる」こころは、宇宙のエネルギーの流れ方にそった、安全で円滑な生き方です。

 だからこそ、日本は建国から3千年近くずっと同じ一つの国が存続してきた、世界で唯一の国なのです。

  神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございます。

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