余白の美、日本の美 

 30年前、同年代に韓国人の知り合いがいました。正確にいうと、韓国に生まれて19才で米国カリフォルニアに家族で移住した人です。ときどきアジア人とアメリカ人の考え方の違いについて、話してくれました。そのなかで印象にのこっている1つに、欧米人は余白を我慢できない、というのがあります。

 オレたちアジア人なら、カベになにもないのがさっぱりしてキモチいいし、落ちつくと感じる。美しいと感じる。しかし、米国人はそこを埋め尽くしてはじめて、落ちつく。だから真っ白なカベが、真っ白なままでそこにあるのを許せないようなところがある。そこに絵を描くとか、写真を貼りつけるとか、とにかくその余白を埋め尽くさないと、いられない。余白を埋め尽くしてこそ、美しいと感じる。それが彼らの美意識というか、一般的な感覚なんだーーこんなふうに教えてくれました。

 ちょうどそのころ、同世代の欧米人学生の「性癖」を見ていたので、この話はすんなり理解できました。その彼は、学生寮で東洋人の学生と相部屋でしたが、共同生活しているその部屋の白いカベも、淡いクリーム色のドアも、濃い色の布と紙、あとは写真、ポスターで埋め尽くしました。同居者に相談もせず、勝手に。この状態が落ちつくのでしょう。洋の東西の美的センスの違いというより、「これもちっちゃな侵略だな」と感じる人がいても、おおげさではありません。

 こういうところに出てくる東西の「差」の根っこは、いまの私の解釈では、やはり「宇宙観の違い」だと思います。東洋人ぜんぶだと話がふくらみすぎるので、自分の民族、日本人ということで、ここでは書きます。

 日本人は余白を重んじます。それは自然というのはあるがままで素晴らしいと見ているからで、その素晴らしい存在を、あるがままに受けいれ、楽しみます。一方で欧米は、自然を相手にしても、あくまでも自分の「意思」を貫かずに自分が生きられない。1日を24時間に分割して、それを60分に割って、さらに60秒に切り刻んで、とやらずに気持ちがおさまらない、それとおなじ感性です。

 たとえば、墨絵はもともと海外から日本に伝わったものですが、日本独特の進化、発展をしました。余白を美しい、心地よいと感じる日本人独自の美意識が影響したのです。

 余白を重んじる日本人のこうした美意識は、原子のなかの「余白」につうじるところがあるのではないかと、私は思います。原子の構造のうち、原子核や電子をのぞいた部分ですね。小学生か中学生で原子の構造の図を見たときから、「じゃあ、このなにもないところは、なに?」とずっと感じていました。日本人は、この「余白」に宇宙の根本的な価値を見抜いて、それが一例として、絵の余白を重んじる文化につながっているのではないでしょうか。

 

 日本語の「からだ」の語源は「カラッポ」だと、聞いたことがあります。本当なら、日本人は大昔から、人間の体は分子、原子の部分をとり除けば「カラッポ」なんだと、見ていたのではないかなと思います。それは「いのち」に意識を向け続ける暮らしのなかでの、民族的な肉体的「気づき」だったのではないでしょうか。

 フランスで整体師をしているある日本人によると、施術の仕上げに体を叩いてあげると、フランス人は最初、みな驚く。叩くことで体のなかにスキ間をつくってあげるんです、体というのは詰まりすぎはよくないんです、と説明してつづけると、気持ちよさからだれでも病みつきになるそうです。健康になるために体を叩くという発想がよほど彼らにとっては突飛なのでしょう。

 日本には「肩たたき」という文化がありますね。プロの整体師の発想が、一般家庭に普及しているのです。私の子供のころは、子供が夜、親や祖父母の肩を小さな両手こぶしで叩いてあげるなんてことは、ごくふつうの家族の風景でした。子供でも親たち大人にしてあげられる身近な「いやし」ですが、受ける大人たちにしてみれば、叩いた効果がどうというよりも、子や孫にやってもらえること自体がうれしかったのです。日本人らしいスキンシップの時間でした。大人たちはみな目を細めて、ちっちゃな子供の一生懸命な肩たたきを受け、微笑ましくもあたたかい家族団らんの時間を過ごしたのです。

 欧米文化は、人間の意図が「ある」ことに価値を認めます。これに対し、日本文化は、人間の意図が「ない」ことに価値を認めます。余白の美が、日本の美です。これは、「我(が)」がなければ宇宙とつながり、宇宙エネルギーが流れこんでくれる、(音のない)静寂に神を感じる、などの日本人の洞察にもつうじますね。

 日本の文化はあたたかくて、人にやさしいのです。アニメ『ちびまるこちゃん』あたりなら、家での肩たたきのシーンは何度か描かれているのではないでしょうか。外国人の子供も大人もそれを見れば、「奇妙だけど、なんだか心があたたまるなあ」と、うらやむのではないでしょうか。

 神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございます。

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