大切にあつかうほど、モノはこたえてくれるーー名選手の洞察      

 現役は引退してしまいましたが、イチローさんを尊敬する日本人は大勢いると思います。それは、彼がたくさんヒットを打ったからとか、メジャーの記録をぬりかえ続けたからでしょうが、それだけでしょうか。彼の所作や振る舞いに、日本人の伝統を感じさせるものがあるからではないでしょうか。

 記者会見では自信をのぞかせるように語るイチローさんですが、試合中にはプレー以外のパフォーマンスをしません。試合前の練習中に、日本から来た若い女性ファンの黄色い歓声を浴びても一顧だにせず、黙々とキャッチボールを続けます。痛快なヒットを打っても、ガッツポーズのような感情の表しかたをしません。顔色一つ変えずに、冷徹に最高のプレーを目指す姿には、道をきわめんとする武道家のような雰囲気が漂っていました。

 そしてもう一つの魅力が、道具を大切にあつかう姿です。内野ゴロを打つと同時に一塁へ猛ダッシュしながらも、バットはやさしく地面にねかせる。ほかの白人、黒人選手たちにぶん投げる人が多くても、決してマネしない。多くの日本人は無意識のうちに、モノをいつくしむ日本古来の美徳を、イチローさんから感じとっていたのではないでしょうか。

その姿勢を、まったく異文化の米国で、しかも最高の舞台でしっかりと維持しながら、メジャーの認めざるを得ない最高レベルの成績をおさめつづける姿に、多くの日本人が尊敬の念を抱くのだと思います。

 イチローさんは常に、道具をしっかり手入れすることの大切さを子供たちにアドバイスしています。愛情こめて扱えば、道具が応えてくれるということを、語っていたと思います。生き馬の目を抜くプロの世界を、ずっと第一線で走り続けてきたトップ選手ならではの信念でしょう。

 その昔、ミスタープロ野球とよばれた長嶋茂雄選手も、「平凡な三塁ゴロでも、魂をこめて打ったゴロなら、イレギュラーするかもしれない、三塁手が捕り損ねるかもしれない」と言ったそうです。超一流選手ならではの、モノをこえた「気の世界」への洞察だと思います。これは、剣道でも三段くらいまではモノの世界の打ち合いだけど、それを超えると、「気の世界」にはいってゆくのと同じではないでしょうか。

 モノをいつくしむと、モノが「気の世界」でこたえてスーパープレーを手助けしてくれる(これは「陰徳あれば、陽報あり」という話でもありますね)ーーイチローさんご本人はこんな話を聞いたら笑うかもしれませんが、彼の現役時代、私はそう解釈して彼の所作とプレーを見ていました。

 そしてもう一つ、彼は「万物の霊長」たる人間の仕事を、きっちりこなす名選手でした。モノを愛情込めてあつかうことで。

 神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございました。

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