300キロを4時間、盗まれなかった網棚のカバン

4~5年前の話です。横浜駅で電車を降りるときに、荷物でパンパンのリュック(20リットル)を網棚に置き忘れました。平日の早朝5時半、すでに通勤客で混む時間帯の、しかも東京方面への上り電車です。急いで駅員に知らせましたが、昼すぎになっても「確保した」旨の連絡がない。さすがの安全な日本でも、今度ばかりは置き引きされたかと半ば覚悟してたところ、夕方近くになって、「小田原駅で保管してます」と連絡がありました。上り電車だったのに、横浜駅より下り(西側)の駅で保管? と、訳が分からぬまま受けとりに向かいました。

聞けば、なんと私のカバンは横浜から東へ、川崎、品川、新橋、東京、上野という乗降客数で日本有数の大型駅を経由して、終点の群馬県・高崎駅まで網棚にのったまま「安全に」運ばれ、そのまま折り返して(終点駅の乗務員の都合で網棚の置き忘れ荷物を点検する時間がさけなかった可能性があるらしい)、なお混んでいる上野、東京、新橋、品川、川崎、の各駅で停まりながら戻ってきて、さらに西の小田原まで旅したということになる。

その間、置きっぱなしのカバンを盗む者が、だれ一人いなかった。だだ混みの車内でこそ、人が激しく乗り降りするのだから、どうやら持ち主がいない荷物であることは、じきにわかります。東京近郊をはずれて、空いてくればなおさらです。「その目」で見ている人間には、もっと気づきやすい。ところが、これだけ長い旅程で、そういう手合いが一人もいなかった。これから出勤や用事に向かう朝の電車なので、わざわざ駅員に忘れ物を手渡す余裕がないのも、理解できます。余裕のでてくる時間帯の乗客か乗務員が、終点の小田原かその手前で見つけて、小田原駅にあずけることになったと思われます。

あとで調べてみると、カバンが網棚に置かれっぱなしで移動した距離は、ざっと320キロメートル、乗車時間だけで4時間。自分の生まれた国でありながら、「日本人って、すげえなあ」と何度もひとり言がもれました。日本人一般の正直さや誠実さは、外国人から言われなくてもふだんから自覚していますが、このときばかりは驚きでした。

そして、こうした日本人のさらに高い精神性をあらわす「おかげ犬」の実話が、江戸の昔にも記録されているというのです。

日本人は、自分たちの道徳心に、きちんと自信と自覚をもっていい。いままさに、それが必要な時期です。

神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございます。

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