草原で眠るように心が休まる、タタミの生活

 タタミの生活が、好きです。「井草(いぐさ)」という植物を編んだタタミを部屋に敷き詰め、その上のふとんに横たわって、毎日眠りに落ちる。まるで大自然のなかで草原の上に寝ころがるように、心も体も休まります。眠りだけでなく、起きているときの生活でも、タタミの上では、座る、歩く、なにをしていても、気持ちが落ちつきます。

 自然のなかで毎日の生活を送りたいという昔の日本人の発想が、こういう形になったということでしょうね。木を建材に家を建て、壁は泥土、間仕切りは木と和紙(材料は木ですね)で作る障子にしたのです。すべて自然の材料で、常に大自然とともにあり、自然の息吹、気配を感じられる住処としたのです。

 私のこれまで日本で住んだ住居はすべて、タタミを敷いてある和室でした。高校生まで住んだ実家はほとんどが和室の住宅で、そこを出てからも自然と和室に住み、途中からは引っ越しのたびに意図して和室を選んできました。理由は簡単。気持ちが休まるからです。

 タタミには湿気を吸いこんだり吐きだしたりと、湿度調整の能力があります。また原材料のいぐさ自体が人の気分を落ちつかせる物質を放出するとも聞きます。岡山県の大橋商店さんのHPでは、タタミの生活では、部屋にいながら森林浴のようなリラックス効果がえられると、紹介しています。住んでるだけでアロマセラピーをうけているようなものですね。

 HPからちょっと詳しく見ると、井草の主な成分は4つで、うち3つ(フィトンチッド、α‐シペロン、バニリン)に精神の鎮静作用があります。とくに主成分のフィトンチッドは森に入った時に感じる「森の香り」の成分であり、不眠解消にも効果があるとされているということです。

 私はひところ、子供のときのように、毎日起きるときと寝るときにふとんを押し入れに上げ下げしていました。そのとき、タタミのうえで眠るのは自分をこころ扱いしている生活なんだなと、自然と気づきました。自分をモノ扱いでなく、エネルギー扱いする生活です。毎日、毎日、自分が心の存在であると、自分の内側に刻みこむ暮らしです。これぞ日本人の人間観の浸みこんだ「和の暮らし」だと、思いました。また同時に、ふとんの上げ下げだけで、自分の心が磨かれているような実感がありました。

 タタミを踏みしめ、寝ころがり、その床面の感触を体が味わうだけで、心がズーンと、落ちつきます。音楽も、テレビも、いらない。むしろ、あるとジャマに感じました。タタミの上に体を寝かせて、「地の気」が全身に染みわたる感じです。

テレビで、日本式の旅館に泊まった外国人家族が、「とても休まりました」と、くつろいだ笑顔で感想をもらしていました。素直な実感だと思います。床より高いベッドという狭い台に体をのせても、たたみほどの心身の安らぎを得られないのは、人間として当然でしょう。

こうやって、昔から日本人は何代にもわたって「気の世界」とつながって、生きてきました。知恵を育んできました。
 
 日本人の民族性を、「外柔内剛で落ちついている」と表せるなら、その性格はこうした和の暮らしのつみ重ねのなかで深められたものでもあるでしょう。

 神さま、仏さま、今日の気づきを、ありがとうございます。

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